このコールセンターの事例においては、私が前任者から教えていただいた問題の指摘については、参考にしましたが、問題点を洗い出す前に問題を指摘した感じがしましたので、全従業者への面談・ヒアリングを重視しました。従業者の個別の問題点を整理して、改めて問題を明確にすることで、自ずと具体策が見つかったことは大きかったです。
コールセンターの規模と行う業務にもよりますが、ある一定の規模を超えると管理者が全てのオペレータの能力を高め、発揮させるには限界があります。現場の前線で活躍するオペレータと指揮や後方支援を担当するスーパーバイザーでは役割がもともと違います。加えて、このコールセンターの事例では、顧客満足度向上と売上増・利益拡大という業務目的からも、利用者や消費者と対峙するオペレータが自らが臨機応変に対応しなければならない事がかなり多いのも事実でした。オペレータがセンターの方針と目的に従い、お客様や見込み客様に対して、その都度に自らが判断して目標を達成していくためには、各自が目的意識と目標達成意欲を併せてもって業務にあたることが大切なことはいうまでもありませんが、管理者はオペレータのために、その環境を創り、風土として根付かせることも重要です。
評価制度構築にあたっては、テーマごとに細かく且つ具体的に行動特性や様式を定義しました。この定義の設定にあたっては、好成績や模範的な従業者複数名の日々の言動を徹底的に分析しました。例えば、始業前は何時頃に出社しどのように準備をするか、電話をかける数量はどれくらいか、グループミーティングではどのような発言をするか、会話の内容はどのようなプロセスを経てクロージングに至っているかなど、様々な視点から行動様式や言動などを定義し、それらを評価項目としたことは、被評価者が手本とする上でもかなり効果的でした。
今回の事例に限らず、一般的に従業者は仕事を選べる立場にはありません。配属された部署と評価方法によっては、著しい不公平感が蔓延することが多々あります。この不公平感を完全になくすことは難しいかも知れませんが、評価要素の評価配分比率の調整や業務間難易度の考え方を導入し、それらを都度見直しを行うこととで、不公平の是正に取り組んでいる姿勢を示すことは重要です。
コールセンターの使命や目的は共有されるものです。その使命や目的を達成するために、業務を行い、また目標を設定されていると考えるのが一般的です。また、一人ひとりが役割を期待されて、各自が適切に評価されたいと思っています。従って、従業者が能力を発揮するための情報や高めるための情報は、積極的に公開し共有されるべきものです。同様に評価方式や評価項目などの情報も公開し、共有されるものです。
今回ご紹介した事例の人事評価制度は、導入にあたり事前に十分なほど、全体と個々人毎に説明をしました。実際、かなりの時間を投じましたが、やはり導入した後で無いと、オペレータには内容についてわかりにくい点が多数あったことを確認しました。レビューは本来、評価者が被評価者に対して、評価内容についてフィードバックするものですが、第一回目の評価後において、出てきた評価結果について、きちんと理解をしていただくためにとても重要なものです。また制度の理解も大切ですが、被評価者が何を身につけるべきか、どのような行動を起こすべきかを気づかせるためにもとても重要なものです。
最後になりますが、今回ご紹介した事例において、私自身が一番成功した要因と感じたものは、クライアントが制度を変更する事を許容したことだと感じています。従業者の多くは、体制や制度の変化を実は望んでいない場合が多く、その変化がたとえ従業者本人の能力向上や成果向上に繋がるものであっても望まない傾向があります。私にとって、クライアントが制度変更を認めてくれ、制度変更のために、ある程度の裁量を付与されたことは、とても重要な意味があり、クライアントの適切な判断が成功に導いたと感じています。